王子様の夢と罪

(※後記…2021年に、お名前が「れいゆ」になりました)

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いまはむかし、霧深き森の奥に戦争で滅んだ古城がありました

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お城には、レイという名前の美しい王子様が、どうぶつたちや天使たちと住んでいました

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王家も国民もメイドも執事も乞食もいませんでした
城下町も税金も国費も国交もありませんでした
ただ草原と森があり、門や壁や屋根が壊れて廃墟と化した美しいお城が雨ざらしで建っていました

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王子様は世界や人間を知りたいと願い、寂しさを感じました
王子様は戦争で負った傷の痛みに、苦しんでいました

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王子様はお城の図書室にあった巻物を紐解き、自分自身に不思議な魔法をかけました
すると王子様のカラダが光り輝き、王子様は美少女になりました
でも魔法をすこし間違えたから、お姫様にはなれませんでした

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その晩、大雨が降り、王子様は鏡に映る自分の姿を見ました
雷が鳴り響き、世界や人間についての情報が、王子様の頭の中に降り注ぎました

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あくる日、王子様は森を出て異国の地トーキョーへ行きました

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王子様は緒川あいみちゃんという芸名を名乗りました

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(王子様は女優さんになりたかった)
(王子様は道化師になりたかった)
(王子様は詩や漫画を読んでほしかった)

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王子様は必要なことしか話せませんでした
王子様はかわいい杖をついていました
王子様はずっと子供のような顔をしていました
王子様はときどき恐ろしい目つきをしました

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そうしてずっと人間に憧れながら一万年さまよいました

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緒川あいみ
本名はレイ
アイドル・永遠・人でなし

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渋谷センター街にポケベルの最期の音が鳴り響いたとき、16歳の広末涼子のポスターが画素数の粗いjpgに変換されながら、3.11以降の日本社会の生ぬるい風に溶けて消えていった

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テアトル新宿から勝新太郎の座頭市が飛び出して、花園神社でやくざの一家と関八州取締役を斬っていって、誤魔化された混沌のビル街上空を血しぶきで彩った果てに、川向こうに花火があがった

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吉祥寺中道通りを高田渡の幽霊が、月のかけらを食べながら薬用養命酒を飲んで、偽善者たちの思い出に睨みをきかせ、三億円を詰め込んだバッグを地面に置いたまま、電信柱にカラフルな虹色のゲロを吐いていた

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ビックロのテレビ売り場から、宇宙人や地底人や未来人や妖怪やお地蔵さんやお狐さんや阿波徳島の八百八狸など多くの新メンバーが加入した最終的なザ・ドリフターズが、「これでおしまいさようなら」と何度も何度も明るく楽しく朗らかに歌うのが聴こえてきた

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東京タワーよりも、スカイツリーよりも、六本木ヒルズよりも、富士山よりも、珈琲のゆれる水面が大きく見えた

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